平均的な損害について式場運営会社の立証が成功したケース
結婚式場のキャンセル料はどこまで認められる?―大阪高裁が示した「平均的な損害」の考え方
結婚式場の予約を1年以上前にキャンセルした場合に式場側に損害って生じるのか?1年もあれば再販できるのではないか?
結婚式場や宿泊施設、スクール、予約サービスなど、キャンセル料を設定するビジネスでは、「キャンセル料をいくらに設定してよいのか」が問題になります。 この点について、2026年4月23日、大阪高等裁判所は、結婚式場の解約料と消費者契約法9条1項1号の「平均的な損害」との関係について、実務上参考になる判断を示しました。
事案の概要
本件は、適格消費者団体である「ひょうご消費者ネット」が、結婚式場を運営する事業者に対し、挙式・披露宴契約に定められた解約料条項の差止めなどを求めた事案です。
原告側は、解約料条項が消費者契約法9条1項1号の「平均的な損害」を超えるなどとして、その有効性を争いました。
一審の神戸地方裁判所は原告の請求を全部棄却。
これに対して原告が控訴しましたが、大阪高等裁判所も2026年4月23日、一審の判断を維持し、控訴を棄却しました。
高裁で特に問題となったのが、
・挙式・披露宴の1年以上前にキャンセルされた場合にも「逸失利益」が生じるのか
・事業者が設定していた解約料が、その逸失利益を超えているのかという点です。
判断のポイント
・1年以上前のキャンセルでも「逸失利益」が認められた
一つ目のポイントは、結婚式の1年以上前という早い段階でのキャンセルについても、逸失利益が認められたことです。
原告側は、1年以上前であれば別の顧客に販売できる可能性があるため、基本的に逸失利益は生じないなどと主張しました。
これに対して裁判所が重視したのが、事業者の「実績データ」です。
事業者から提出された過去5年間のデータを見ると、披露宴等の「366日前以前」に解約された契約についても、実際に再販できなかったケースが一定数存在していました。
そこで裁判所は、事業者が利益を上げる機会が具体的に損なわれたと評価しました。
「1年前ならまだ別の予約を取れるはず」と抽象的に考えるのではなく、「実際にどの程度再販できているのか」というデータに着目している点がかなり重要です。
・「解約時の見積額」を損害算定の基礎とすることを認めた
もう一つ重要なのが、逸失利益の算定方法です。
本件では、「解約時見積額の平均 × 粗利率 × 非再販率」という考え方が問題となりました。
原告側は、結婚式の見積額はその後変更される可能性がある暫定的な数字にすぎないとして、これを損害算定の基礎とすることは不合理だと主張しました。
しかし裁判所は、見積書では提供する役務ごとの金額が積み上げられており、見積作成後から実際の披露宴までにその内容や金額が本質的に変更されるものではないとして、「解約時見積額」を損害算定の基礎とするだけの内実があると判断しました。
その上で、損益相殺後の逸失利益と比較して、本件の解約料は「平均的な損害」を超えていないと判断しています。
・キャンセル時期の区切り方にも一定の裁量を認めた
本件では、「181日前以前」などの期間区分の合理性も争われました。
裁判所は、具体的な期間については、消費者契約法に反しない限り、事業者がその業務上の経験則に基づく合理的な裁量によって設定することが許されるとの考え方を示しています。
再販率は、キャンセル日が1日早くなれば一定割合で上昇する、といった機械的なものではありません。
そのため、開催日が近い時期では期間を細かく区切り、遠い時期では長めに区切るといった設計も、直ちに不合理とはいえないとされました。
実務への示唆
今回の判決から事業者が学ぶべきポイントは、単に「結婚式場では1年以上前でもキャンセル料が取れる」ということではありません。
あくまでも当該ホテルの式場においてそうだっただけで、別の式場では違う結論になるかもしれないからです。
むしろ重要なのは、キャンセル料の金額や料率を客観的なデータによって説明できる状態にしておくことです。
とりわけ、キャンセル料を設定する事業では、
・キャンセル時期ごとの再販率・非再販率
・キャンセルによって実際に発生する実費
・商品・サービスの粗利率
・キャンセル時点における契約金額や見積額
・キャンセルされた枠を他の顧客に販売できた割合
といったデータを蓄積しておくことが考えられます。
また、キャンセル料を「30日前50%、前日100%」などと設定する場合にも、「業界で一般的だから」という理由だけではなく、なぜその時期からその割合の損害が生じるのかを、自社の実績を踏まえて説明できるようにしておくことが望ましいでしょう。
今回の判決は、キャンセル料の適法性を考える際に、抽象的な料率や抽象的な再販可能性だけを見るのではなく、**「その料率を裏付けるデータがファクトとして存在するか」**という視点が重要であることを改めて示したものといえます。
結婚式場だけでなく、ホテル、旅行、飲食店、スクール、イベント、予約サービスなど、キャンセル料を設定する幅広い事業者にとって参考になる判断ではないかと思われます。
まとめ
本件でも、広告表示において常に重視されるファクトベースの表示というものの重要性が改めて再確認されたと言えるかもしれません。
法的な紛争においては、抽象的な見立てやありそうな経験則よりも、当該事案における事実こそが全てであるということが再確認され、それはキャンセル料の設定においても変わらないということが明確になった判決とも言えます。
