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2026.09.02 デジタル広告

2026年消費者契約法改正の動向

2026年 消費者契約法改正の動向 ——「中間取りまとめ(案)」にみる改正論点

1.議論の状況

2026年(令和8年)8月31日、消費者庁の「現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会」(座長・山本隆司東京大学大学院教授)第8回会合において、「中間取りまとめ(案)」が議論されました。

まず、この取りまとめ案は改正法案ではなく、検討会において2025年11月以降の審議状況を整理した中間段階の取りまとめ文書です。
そのため、ここで取り上げる論点はいずれも「そのような方向で検討することが考えられる」というレベルのものでああり、確定した改正内容ではありません。

もっとも、消費者庁では今後この中間取りまとめ案をベースに法改正の検討を進めるはずであり、条文の骨格に相当する記述が具体的に提示されている部分もあります。
特に、継続的な契約関係に基づいてサービス提供を行っているサブスクリプション事業者、契約約款を用いて消費者と契約を締結しているデジタルサービス事業者にとっては、今後の改正法案の輪郭が見える文書として重要と思われます。

議論の推移は以下のとおりです。

2022年消費者契約法改正。衆参両院の附帯決議で「既存の枠組みに捉われない抜本的かつ網羅的なルール設定」の検討を要請
2023年7月消費者庁「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会」議論の整理(計15回)
2024年12月「解約料の実態に関する研究会」議論の整理(計12回)
2025年7月消費者委員会「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会」報告書
2025年11月〜現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会
2026年5月現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会ワーキンググループ論点整理
2026年8月31日第8回現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会

 改正の思想的な柱となっているのは、2025年7月に公表されたいわゆる「パラダイムシフト報告書」です。この報告書は、従来の消費者契約法が前提としてきた「一般的・平均的・合理的消費者像」(情報や判断の機会が与えられれば適切な判断ができる強い消費者)を相対化し、消費者ならば誰しもが多様な脆弱性を有する(消費者の脆弱性)という認識を制度の大前提に置くべきとしました。

 ここで消費者の脆弱性とは3つの観点で捉えられます。「類型的・属性的脆弱性」(年齢・教育水準・経済状況等により意思決定が脆くなること)、「限定合理性による脆弱性」(誰もが限られた範囲でしか合理的判断ができないという意思決定に脆さがあること)、「状況的脆弱性」(状況次第で合理的に考えることが難しくなるという脆さ)です。

 この消費者像の転換を消費者契約法に落とし込むのが今回の改正の本義と思われます。

2.取りまとめ案の全体像(改正の方向性)

中間取りまとめは4部構成からなります。

  • 1  消費者の多様な脆弱性への対応(配慮規定/解除権)
  • 2 消費者契約の各過程に関する必要な規律(継続的契約・サブスク)
  • 3 「解約料」の実態を踏まえた実効的な仕組み
  • 4 横断的な事項(目的規定・「消費者」の定義)

このうち、契約実務やドキュメンテーションへのインパクトが大きい順に並べ替えると、①継続的契約の規律、②新たな解除権、③キャンセル料規定、④配慮規定、になるのではないかと考えます。以下、順に見ていきます。

3.取りまとめ案各論

(1)継続的契約関係の規律

ア 規律の対象範囲

 新たな規律の対象は「事業者が物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものを継続的に提供し続ける消費者契約」であり、いわゆる「サブスク契約」を規律の中心に見据えています。
 一方、事業者の履行が一回で完了する類型は対象外とされています。具体的には、①商品・役務が契約締結から時間的間隔をおいて一回的に提供される場合、②目的物の提供は一回的だが消費者が相当期間対価を支払い続ける場合(割賦販売等の契約)です。他方、賃貸借契約や使用貸借契約のように引渡し後も賃貸人としての付随的役務の提供義務が生じるものは、継続的消費者契約の一態様に含まれるとされており、その適用範囲はいわゆるサブスク契約に留まらないとされている点は注意が必要です。

イ 解約妨害の禁止

 禁止対象として例示されているのは以下の行為ですが、これが新聞等で報道されていたダークパターン規制の本丸になります。

(ア) 消費者の解約を妨げるために行う行為

  • 解約判断に通常影響を及ぼす事項についての不実告知
  • 将来における変動が不確実な事項についての断定的判断の提供
  • 解約をしようとしている場所からの退去妨害
  • 解約をしようとしている場所からの不退去
  • 解約の申入れを受けることを拒否する行為・不当遅延
  • そのほか、健全な商慣習に照らし不当に消費者の解約を妨げる行為・環境設計(下位法令で具体化を想定)

(イ) 解約に関して消費者を欺く行為・威迫して困惑させる行為

(ウ) 解約によって事業者に生じる債務の履行の不当な拒否・遅延(返金しない等)

 実務上とりわけ注目すべきは(ア)の最後の不当に消費者の解約を妨げる行為・「環境設計」です。これはいわゆるUI設計そのものを規律対象に取り込む文言といえ、いわゆるダークパターン規制に該当します。
 解約導線を意図的に迂遠にする、退会ボタンを発見困難な位置に置く、といった設計が正面から射程に入ってくることになり、下位法令での具体化も予定されているため、改正法の内容もさることながら政省令の具体の内容が実務上の分水嶺になりそうです。

 効果の設計も押さえておく必要があります。中間取りまとめは、解約妨害があった場合に消費者に新たな解約権を発生させることや、妨害の事実のみで解約の効果を擬制すること(解約擬制)は、いずれも採らない方向を示しています。取消権など既存の規律との均衡を欠く、という理由からです。
 その代わりとして想定されているのが適格消費者団体による差止請求です。個別の民事効果はないものの、団体訴訟に発展するリスクはありますし、このような差止請求がされたという事実が消費者庁のサイトに公表されることになります(消費者契約法39条1項)。
 事業者にとっては「損害賠償を請求されるか」というよりは「解約導線について差止訴訟の対象になりうるか」「そのことにより自社のレピュテーションが低下してしまわないか」という視点で備える必要が生じてくるかもしれません。

ウ 合理的な離脱方法の提供(努力義務)

 解約妨害に該当しない行為であっても、締結方法に比べて解約が困難である、手間を要する(解約妨害の一種)、といった事態への対処が必要とされ、事業者に合理的な離脱方法を用意するよう求める規律が検討されています。

 ただし、簡便であることが適当な場合もあれば、安易な解約がユーザーの不利益になるタイプの契約もあることから、離脱のメリット・デメリットを慎重に検討する機会を設けることが適当な場合もあるため、一律の義務ではなく努力義務の方向で検討されています。       

 なお、ワーキンググループ論点整理では「離脱方法が契約締結方法と同じ方法である場合、あるいは同じ方法を含む複数の方法が用意されている場合には多くの場合に合理的」との考え方が示されており、米国FTCのクリックtoキャンセル規則的な発想に近く、実務上の目安として参考となるように思われます。

エ 解約の方法・条件に関する情報提供(努力義務)

 現行法3条1項2号(勧誘に際しての契約内容の情報提供)および同項4号(消費者の求めに応じた解約権行使に必要な情報の提供)を前提としつつ、契約を継続する期間を通して解約に関する情報を提供する努力義務を加える方向で検討がされています。つまり、解約に関する案内を勧誘時と請求時だけでなく、契約継続期間を通じた恒常的な情報提供が求められることになりそうです。

オ. 自動更新時の事前通知(努力義務)

 自動更新が付いている契約について、消費者が更新しない旨の申出をする機会を確保するため、あらかじめ申出の時期・方法、更新後の契約期間などを通知する努力義務が検討されています。

 注目すべきは、通知の必要性に強弱があることを明示している点です。物品が定期的に届く場合や情報が定期的に提供されるプッシュ型の契約と、消費者が能動的にアクセスしなければ情報やサービスを受け取ることができないプル型の契約とを区別し、後者については事前通知の必要性が高いとされています。契約の存在自体を忘却しやすい類型ほど通知が重要だという整理であり、休眠状態のサブスク会員を多く抱えるサービスは対応の優先度が高いという整理になるでしょう。一律の義務化を見送った理由として「消費者の通知疲れ」への言及があるというのは消費者感覚に沿うものといえます(1ヵ月更新のサービスで毎月通知が来るのはうるさいでしょうから)。

カ 約款変更時の個別通知義務—— ここだけ努力義務ではない

 継続的契約関係の規律群のなかで、唯一義務として構想されているのがこれである。

 民法548条の4第1項2号による定型約款の変更(相手方の一般の利益に適合する場合以外の変更)であって、かつ契約の重要事項の変更にあたる場合、事業者は変更前に、現に契約関係にある消費者に対して個別通知をしなければならない、というものです。民法では通知ではなく周知で足りるものとされているところ、個別の通知を義務付ける点が大きな変更ポイントになります。
 通知事項としては、変更後の契約内容、変更の効力発生時期、変更前に解約できる期間・条件・方法などが想定されています。消費者への通知が困難な場合に代替措置をとるときの例外規定も置かれています。

 ここでの「重要事項」は、現行の消契法4条5項を参考にする考え方もありますが、個別の通知義務を課す以上は通知事項を際限なく広げるべきではなく重要度の絞り込みを行うべきではないかという観点から、たとえば「消費者が支払う対価が増えること」「解約条件が厳しくなること」に限定する案が示されています。

 制度設計上重要なのは、この個別通知を定型約款変更の効力要件とするか否かという点です。つまり、事前の個別通知がなければ変更の効力が生じないとするか、個別通知がないということは契約上の義務違反を構成するにとどまると見るかです。
 この点の位置づけについては今後また具体的に議論されるのではないかと思われます。
 なお、個別通知を行わなかった場合に、適格消費者団体が通知義務の実施を請求できるようにする点については、既に行われた変更について個別通知を義務付ける意味、将来の変更について請求する場合、(裁判を起こす場合の)紛争の成熟性・請求の特定性の観点から、慎重な検討を要するとされています。

 これから読み取れることとしては、値上げや解約条件の変更を伴う約款改定を行う場合、変更フローに「現契約者への個別通知」が組み込まれるかもしれないという観点で見直しを行う必要があるかもしれないという備えをしておくことでしょう。実務上は多くの事業者が既に個別通知を行っていると思われますが、個別通知をスキップして約款変更を行う場面もしばしば見られるところですので、この辺りのさじ加減には注目した方がよさそうです。

キ 契約当事者死亡時の連絡手続等の整備

 契約当事者である消費者が死亡した後も提供が続く継続的契約について、相続人からの問合せに円滑に対応できるよう、情報提供・解約手続・相続人の確認方法をあらかじめ定め周知する努力義務が検討されています。
 事業者が死亡の事実を把握することは困難ですから、死亡を端緒に一律の積極対応を求めるのではなく、対応手順の事前整備を求める設計となりそうです。

(2)契約の拘束力からの解放-新たな解除権

ア ワーキンググループ案からの大きな修正

 2026年5月の論点整理では、消契法上に、次の3要素からなる解除権が構想されていました。

①消費者が適切な判断をすることが困難な状態

深刻な結果となる内容の契約を締結した場合に解除できることとし

③事業者の予見可能性を確保しつつ、「第三者」による見守りを促す仕組みを設ける

 もっとも、①については事業者において適切な判断をすることが困難な状態であることを予見できるのかという予見可能性の課題、適切な判断をすることが困難な状態を判断するための指標を例えば認知症などの特定の症状と関連付けた場合、一定の症状や病名を持つ方は市場から排除されてしまうという課題がありました。また、③については、その「第三者」が契約者本人を利用して自分の利益を優先しないことをどう保証するのかという課題が指摘されていました。

 そのため、中間取りまとめでは、上記の①と③が落とされ、②の要件を中心に検討されることとなりました。

イ 修正後の方向性「深刻な結果となる内容の契約であるかどうか」

 残されたのは②を中心に据えた設計ですが、深刻な結果となる内容の契約という要素を中心に据え、「消費者の脆弱性」を考慮しつつ、どのような内容・類型の契約が対象となるかについて具体的な事例や裁判例を踏まえて要件の明確化を図ることとされました。

 また、消費者契約全体を射程とする影響の大きさに鑑み、事業者の主観的要素(深刻な結果となる内容の契約であることを知っていたこと)を要件として取り入れる方向が示され、ワーキンググループで指摘されていた「事業者の主観的要素を含めた要件の組合せ」という論点(課題d)を採用されました。
 もっとも、ここで、事業者が消費者側の個別事情を積極的に調査する義務はないこと、不当な情報収集が行われないようにすべきであるという点は注記されており、事業者に求められる主観の対象は、消費者の個別具体的な事情(例:認知が低下している、一人暮らしで身寄りがない、貯金が少ない等々)ではなく、あくまでも契約の外形(一般的に深刻な結果となる内容の契約であるかどうか)に着目した整理になるのではないかと予想されます。

ウ 行政措置との連携可能性

 また、消費者契約法以外の手法として、特定商取引法に基づく指示等の適切な運用、訪問販売分野(レスキューサービス・点検商法)への措置の検討、自治体と連携した見守りネットワークの構築促進も併せて挙げられていますが、特に重要なのは、並行して改正が議論されている「デジタル取引・特定商取引法等検討会」の議論との接続になると思われ、この点は別稿で取り扱う予定です。

(3)キャンセル料規定-消契法9条1項1号の改正は見送りになるか否か

ア 長年にわたって指摘されてきた検討課題

 消費者契約法9条1項1号の「平均的な損害の額」については、①どのような場合に超えると考えるべきか解釈が明確でない、②消費者・適格消費者団体による立証が困難、③実際のビジネスでは損害の発生を前提とせずに解約料を定める場合があり「平均的な損害」との関係だけで規律することが実態に合わない、という三つの課題が指摘されてきており、この点について検討会でも議論が継続されてきました。

イ A案かB案か折衷案か

 そこで、中間とりまとめでは、最終的に以下のA案、B案、折衷案が具体案として検討することとされています。
A案 —— 9条1項1号の立証責任を事業者に転換する。
その上で、価格差別目的の解約料については「平均的な損害の額」によらない新たな基準を設ける。
具体的には、
➡ 同種の商品・役務について複数の合理的な選択肢がある場合に、最も解約料が安い選択肢(無料の場合を含む)の解約料が平均的な損害の額を超えないときは、他の選択肢の解約料には平均的損害基準を適用しない、というものです。
 この考えについて、筆者としてもいまいちよく理解ができていないところですが、以下のような論理なのではないかと推察します。
 すなわち、価格差別目的の解約料については、様々なタイプがあり、これにより消費者も様々な選択肢を持てるメリットを享受している。だから、一律、平均的な損害の立証を課すのは酷だという考えです。そのため、きちんと消費者のための選択肢を用意できた事業者には、解約料のうち一番安いものが平均的損害を超えないことの立証さえできれば、解約料のうち高いものについてイチイチ平均的損害を超えないことを立証しなくてもいいですよという特典を与えるという志向と考えています。

B案 —— 原状回復賠償に相当する部分等は消費者が、それ以外の部分は事業者が立証責任を負うものとする案です。趣旨としては、キャンセル料のうち原状回復賠償に相当する部分は、消費者に負担させるのが合理的と思われるので、立証責任をそれぞれ分担しようという考えになります。

 しかし、上記の2案いずれにも批判が寄せられました。すなわち、A案には、合理的でない価格差別目的の解約料が紛れ込む懸念を払拭できない(一番安い解約料だけを合理的なものとし、それ以上の解約料は事業者都合で設定して規制をハックできてしまう懸念)、業種によっては複数選択肢の設定が不合理・困難である中(マーケ企画部門や法務部門などの人的リソースがない小さな事業体が消契法の適用を踏まえた複数の選択肢まで提案できるのか)で立証責任を課せない、との指摘がありました。
 B案には、原状回復賠償相当部分の立証も実際は消費者には困難で現状と大きく変わらないのではないか(何が原状回復賠償になるのか消費者は分からない)、消費者契約は多様で一律の区分が困難、との指摘がありました。
 また、両案共通して、「平均的な損害の額」概念の明確化が困難ななかで新たな規律を導入することの問題、制度が複雑で分かりにくくなるとの懸念も示されました

折衷案
そんな中、本検討会の山下座長代理から折衷案が提出されます。
すなわち、
➡ キャンセル料条項について平均的損害を超えないことの立証責任を事業者に課しつつ、各契約類型ごとに平均的損害を超えない損害の推定規定を設ける規定の仕方です。
 たとえば、契約の解除後に商品が消費者から事業者に返品される場合は、引渡しから返品までの間の使用料相当額(仮にその商品をレンタルしたと考えた場合の期間内のレンタル料相当分)は平均的損害を超えないと推定します。
➡ もう一つが、複数のキャンセル料を定めた場合(A~C)に、キャンセル料Aの額が平均的損害を超えないことを証明した場合は、BとCのキャンセル料がAと同等の条件で消費者に提供されることを条件として、BとCのキャンセル料についても平均的損害を超えないことを証明したものと扱うという規定です。
 この「同等の条件」というのは、要するにAもBもCもキャンセル料の発生事由が同じであったり、AもBもCもきちんと消費者において選択できる余地があったというようなニュアンスと思われます。 

ウ  結論 —— キャンセル料に関する説明責任の強化へ

 結論として、中間取りまとめ(案)では、9条1項1号の見直しは行うかどうかは一旦保留する方向となったようです。
 すなわち、「本検討会における検討を進めていく中で、平均的な損害というメルクマー
ルを基礎としつつ、取引実務において多種多様な解約料を精緻化して適切な解約料を導く一律の基準を設けることが困難であること等が次第に明らかになってきた。また、平均的な損害の立証は、消費者にとっては証拠の偏在の観点から困難であるが、実際のビジネスにおいては必ずしも損害の発生を前提として「解約料」を定めていない場合がある中では、あらゆる解約料について一律に事業者が平均的な損害の立証責任を負担することも困難であることが指摘された。」
という記載がなされ、代わりに説明責任の強化へ振る方向となるようです※。
※ただし、第8回検討会で二宮委員から提出された日弁連意見書に、改正を進めるべき旨の強い意見が付されており、中間取りまとめ案ということも踏まえ、9条1項1号の改正が引き続き検討される可能性はあるように思われます。

(ア) 3条1項の改正(努力義務)

勧誘に際して、解約料の額・支払時期等が異なる複数の選択肢がある場合には、当該選択肢についての情報を適時・適切な方法で提供することを促す方向です。
A案で構想された「複数選択肢」の発想が、無効判断の基準ではなく情報提供のルールとして生き残った形になります。

(イ) 9条2項・12条の4の拡充(努力義務)

解約料の算定根拠の説明について、①契約の締結及び履行のために通常要する費用以外のものが含まれる場合にはその旨、②参考とした業界等の考え方がある場合にはその旨を、それぞれ示して説明することを促す規定です。

エ 事業者団体の自主規制の活用

 9条1項1号の改正とは別軸で、業界ごとの「平均的な損害」の内容や標準的な解約料の考え方を明確化する取組が有益であるとされ、官民協議会の活用も想定されています。
 ただし自主規制を消費者の権利義務に直結させること(いわゆるグレーリスト的手法)については、法律の委任によらない規範を正当化要素とすることになるとして、慎重な検討が求めれるのではないかという整理になりそうです。
 キャンセル料を設定する事業者にとって、無効リスクの判断枠組みは当面変わらないと思われますが、他方で、料金プランの選択肢設計と、その説明の設計は事実上求められるようになる可能性もあり、解約料の性質(何の対価・何の補填なのか)を言語化する作業が、説明義務への備えとして必要になるかもしれません。

(4)配慮規定-消費者契約法の新しい潮流

ア プリンシプル規定

 消費者契約法に、特定の行為を命じ、禁止する規定でも、特定の行為を行うよう努めることを求める規定でもない、事業者の消費者に対する一定の配慮規定をプリンシプル(行動規範・行動原則)規定として導入する方向です。
 中間取りまとめ自身がこれを同法への「新機軸の導入」と評していますが、配慮の対象は二つに分けて整理されます。

(ア)消費者の適切な判断の確保についての配慮(努力義務)
  • ① 消費者が適切な判断をすることが困難な状態に陥ることがないようにすること(例:焦らされることにより熟慮の機会が損なわれる場合)
  • ② 既にそのような状態にある消費者が不適切な判断をすることがないようにすること(例:加齢により判断力が低下している場合)

 これらは理想的な取引環境に向けた「適切な判断に資するように配慮する努力」を促す規律として想定されています。

(イ) 消費者契約の締結がもたらす結果についての配慮(努力義務)
  • 契約締結により消費者またはその配偶者・扶養親族の生活の現状を著しく悪化させないように配慮する努力
  • 契約内容が消費者の契約目的・生活状況・財産状況に適合するものとなることに資するよう配慮する努力

 ここで注目したいのは、5月の論点整理よりも中間取りまとめ案は努力を促す規律に後退している点です。
 理由として、一律の義務とすると事業者が消費者や配偶者・扶養親族の生活状況を過度に把握しようとしたり、取引そのものを控えたりする可能性(結果的に消費者が市場から排除されてしまう可能性)、不当な情報収集の口実とされるおそれ(トクリュウ等による個人情報の悪用リスク等)が挙げられています。

イ 場面と効果

 配慮を求める場面は契約締結場面を中心としつつも、契約類型ごとに配慮の仕方が異なるという方向が示されました。
 すなわち、単発的な契約では、締結時に脆弱性が考慮されていれば履行・終了場面で別途問題が生じる可能性は比較的低いものの、継続的契約の履行・終了場面については締結場面とは異なる消費者の脆弱性が影響する可能性もあるため、別途対応が必要という整理です。

 効果については、直接的な民事上の効果および行政処分に関する規律は設けることに慎重とされました。行政処分に至らない指導・勧告・公表といった行政措置についても、他法令との関係、消費者契約一般という広範な対象に対する実効性の点で課題があり慎重な検討が必要とされました。

 事業者が配慮をしたと評価できる場合には、結果的に消費者が適切に判断できなかったとしても、それ自体を問題とするものではない、と明記されているため、結果責任ではなくプロセス責任として設計されている。

 期待される効果として挙げられているのは、①問題発生の幅広い予防、②積極的な取組が可視化され消費者に支持・選択されるという好循環、③配慮規定・指針が紛争時の解決指針となることによるADR・相談窓口での簡便な解決の促進とされいます。

ウ その他の配慮事項

(ア)アテンション・エコノミー

 消費者が金銭ではなく自己の情報・時間・アテンションを提供する取引(アテンションエコノミー)について、それが「消費者契約」に該当する場合には、金銭を支払う場合と同様に、望まない契約を締結させられるという自律的意思決定の阻害の問題が生じるとされており、無償のアテンションエコノミーも消費者契約に該当するという考えは共有されたように思われます。
 もっとも、これに特化した規定は設けられる予定はなく、配慮規定や官民協議会・指針による柔軟な対応で足りるという整理とされました。
 情報・時間・アテンションの収奪、信頼の毀損、偽・誤情報の拡散助長、依存性、選好の偏り強化といったパラダイムシフト報告書が指摘した他の問題については、社会的議論の成熟度に応じて、法制度以外の施策や情報法等の隣接分野との関係を踏まえて必要に応じ検討するとされています。
 そのため、デジタル広告・メディア事業者にとっては、今回の改正でアテンションエコノミーに対する正面からの規律は見送られたと理解してよいと思われますが、後述の官民協議会において指針等が具体化される可能性もあるため、引き続き注視する必要はあるように思われます。

(イ)グレーリスト

 行政において有効無効に関して疑義のあるグレーな行為を列挙した上で、一定の行政の認定の下でのみ当該行為を有効化するという仕組み(グレーリスト)も検討されましたが、消費者の権利義務に関して法律の委任によらない正当化要素を与えてしまう点憲法上の問題があるため、こちらについては導入が見送られました。
 もっとも、後述の官民協議会が実質的なロビイングチャネルとして機能し、そこで取り決められた指針が事実上の標準(実質的なグレーリスト)となる可能性もあるため、引き続き注視が必要なのではないかと考えます。

エ 指針と官民協議会~実質的なロビイングチャネルの可能性~

 上記のように配慮規定は行為を特定しない包括的な規範とされる一方で、配慮に関する官民協議会を組織して指針の内容を協議した上で、実務上の手がかりとして内閣総理大臣が指針を策定する方向が検討されています。
 すなわち、指針の策定・見直し・運用を協議する場として官民協議会を組織し、構成員は消費者団体、事業者団体、学識経験者等で、行政の関与は必須としつつ、分科会やヒアリングによる多様な主体の参画が想定されています。
 この官民協議会は指針形成に関する実質的なロビイング・チャネルとも評価できます。そのため、業界団体を通じて自社業態の実情を指針に反映させるべく、官民協議会の組成の動向は注視すべきでしょう。

4 実務対応の優先順位

現時点は中間取りまとめ(案)の段階にすぎず、条文化の過程で内容が変わりうると思われますが、それを踏まえたうえで、事業者側で先行して備える価値があるのは以下の事項ではないかと思われます。

優先度・高

  1. 解約導線の点検(サブスク・継続課金事業者) —— 解約妨害の禁止は適格消費者団体の差止請求の対象となる方向であり、しかも「環境設計」というUIそのものを射程に含む文言が置かれているため、契約締結の導線と解約の導線を並べて比較し、非対称性がどこにあるかを洗い出す作業は、法改正の内容が確定する前でも着手しておく意味があるかと思われます。
  2. 約款変更フローの整備 —— 個別通知は数少ない「義務」化の候補になっています。値上げや解約条件変更を伴う改定について、現契約者への個別通知を標準手順に組み込むことを検討してもよいかと思われます。特に、個別通知ではなく周知で対応してきたことが多い事業者にとっては従前の対応を見なおす機会として活用する余地はあります。
  3. 解約料の性質の言語化 —— 9条1項1号の改正は見送られましたが、説明義務は(努力義務とはいえ)強化される方向なので、自社が設定している解約料/キャンセル料が原状回復賠償に相当する部分か、それ以外の目的(価格差別等)を含むのかを整理し、説明可能な形にしておく余地はあるかと思います。

優先度・中

  1. 自動更新の通知運用 —— 特にプル型サービス(ユーザーがアクセスしない限り役務・サービスの提供が発生しない)について、休眠会員比率の高いサービスは自動更新の通知の運用について検討する価値はあるかと思います。
  2. 高額・生活基盤関連取引の記録運用の現状把握 —— 新たな解除権の「事業者が知っていた」要件を見据えた記録等の運用の確認です。過剰な情報収集は逆にリスクとなりますし、具体的な指針・逐条解説がなければ動き出しは難しいと思われ、あくまでも現状把握に留めるべきですが、いざ洗い出しをとなると大変なため今のうちからリストアップだけ行っておくだけでも価値があるかと思います。
  3. 死亡時対応手順の整備 —— 努力義務にとどまるが、整備コストは低く、実務上の紛争予防効果は高い。

引き続き注視

  1. 官民協議会と指針の動向 —— 業界団体を通じた指針形成への関与。
  2. 下位法令の内容 —— 特に「健全な商慣習に照らし不当に消費者の解約を妨げる行為・環境設計」の具体化。
  3. デジタル取引・特定商取引法等検討会 —— 中間取りまとめは同検討会との連携に留意するとしており、特商法で検討が予定されているダークパターン規制や訪問販売分野の規制動向も確認する必要がありそうです。こちらについては別稿で詳しく検討する予定です。

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