Column
2026.09.18 法務アウトソーシング

新規事業に法務が早く入るために──「相談を引き出す施策」「呼ばれる法務」になるにはどうしたらいいのか?

「この件、来週には契約を締結したいので!確認をお願いします!!!」
新規事業の相談が法務に届くのが、この一言からになる場面は少なくありません。

スキームはすでに固まり、相手方との交渉も終わってしまっている。この段階で規制上の問題が見つかってもできることは限られます。

本稿では、企画段階の情報を法務がどう取りにいくか、そして早く呼ばれる法務が何を意識しているかを、実務に即して整理したいと思います。

1. なぜ法務は後から呼ばれるのか

事業部が法務を後回しにするのは、悪意からではありません。多くの場合、次のような理由です。

  • 固まっていない話を持っていくと、判断材料が足りないと一蹴されそうで気が引ける
  • 過去に相談したとき、問題点の指摘だけが返ってきて突き放されたようで嫌な気持ちになった。
  • 法務を通すと時間がかかりそうという印象がある。
  • そもそも、どこに法的な論点があるのか自分たちで気づいていない

最後の一つが最も多く、かつ最も厄介です。気づいていない以上、相談する動機が生まれません。

したがって、事業部からの相談を待つ体制では、企画段階の情報は構造的に入ってこないことになります。法務の側から積極的に情報を取りに行く必要があります。

2. 情報を取りにいくための四つの施策

(1) 事業部との定例を持つ

最も再現性が高いのは、事業部ごとに月次または隔週の定例枠を確保することです。ただし、議題を事業部任せにすると「今月は特にありません」で形骸化する可能絵師があります。
これに対しては、法務の側から毎回同じ質問をするようにしておくと安定します。たとえば「今検討中で、まだ形になっていないものはありますか」「今期中に始めたい予定のものはありますか」といったオープンな聞き方です。
具体化した案件ではなく構想段階のアイデアを拾いに行く、という発想です。
内容によっては、外部弁護士に相談する必要性がある専門性の高い領域を含むこともあるため、前もって論点を把握しているだけでも法務として心構えができます。
定例が特に有効なのが、相談数が多い部署です。悪い意味で仕上がった案件が法務に来るよりも前に軌道修正を行うことができますし、信頼関係の醸成にも役立ちます。

(2) テキストで済む話でもあえて打合わせを入れてみる

チャットで回答できる質問に、あえて15分~30分程度の打合わせを入れることも有効です。
非効率に見えますが、得られる情報が違います。
テキストでの相談は、事業部が整理した論点や整理した方向性だけでかつ文字情報です。一方、口頭で話すと「実はもう一つ腹案があって」「上はこう言っているのですが個人としてはこう思っていて上を説得したくて」「こういう裏事情がありまして」などといった前提やテキストの背景にある裏事情が見えてきます。
この文脈を読み解いて、どこを着地点として事業部と伴走していくかを事前に整理することが可能となります。
もちろん全ての相談に打合わせを入れる必要はありません。新規性がある案件、相談の背景が読めない案件※1、何を言っているのかよく分からない案件※2などに絞りつつも、たまに敢えて入れることでまた違う景色が見えることもあります。

※1相談の背景が読めない案件:聞きたいことは伝わるが、なぜこのタイミングで相談となったのか腑に落ちない案件。聞きたいことは伝わるが、わざわざ聞かなくてもそんなこと分かるだろうというようなことを聞いてくる案件
※2何をいっているのかよく分からない案件:テキストを読んでも何をいっているのかよく分からない案件、ヒアリングの中で担当者自身が何を相談したらいいのか自体分かっていない(上司の指示が雰囲気過ぎて担当者もついていけていない)ことが判明することもあります。

(3) 事業部の検討の場に法務も入り込む

定例と似た要素としては、事業部の定例会議にオブザーバーとして参加する方法も使えます。また、事業部のチャットチャンネルに法務が入る、といった形です。発言しなくても企画が動き出す気配は拾えます。

ただ、これは一長一短で、入る会議や入るチャットはある程度絞り込む必要があります。法務のキャパシティー、処理能力にも限界があるので、多すぎると何が何だか訳が分からなくなるためです。

そのため、入り込む導線はある程度絞り込むべきですが、多少情報がメタボ気味になったとしても、相談導線以外の情報収集のチャネルを持っておく意味は、閉じられた空間でしか情報を与えられない環境よりは、事業に貢献できる可能性は格段に上がります。

(4) 社内勉強会で顔を売る&事業部にアンテナを張ってもらう

「どこに法的論点があるか気づいていない」という問題に響くのが勉強会です。法令の逐条解説をするわけではなく、題材は自社で実際に起きた事例や世間で話題になっている事例などを使うと聞き手の印象に残りやすいと思います。

「この案件は、この時点で相談してもらえていれば設計を変えられた」というような具体例が一つあるだけで、次に似た形の企画が出たときに事業部から声をかけてくれる可能性が上がります。
また、アンテナを張ってもらうというだけではなく法務の顔を売るという行為にもつながります。
あ、あの人がいたな、法務っていう部署があったな、と興味を持ってもらうことも重要です。

3. 事業部は「法的にどうか」だけを聞いているわけではない

企画段階の相談を受けると、法的な論点がまだ固まっていない状態で意見を求められることになります。規約もフローも責任分担も未確定のまま「どう思いますか」と聞かれる。このとき事業部が求めているのは、適法・違法の判定だけではなく、その設計で実際にビジネスが回っていくだろうかという不安感を持っています。

もちろん、ビジネス上の判断をするのは事業部であって、法務ではありません。法務がしているのは、法的リスクの評価に加えて、運用可能性という具体的な業務フローを検証することです。規約上は適法でも、その前提となる運用が守られなければリスクは現実化しますから、運用の現実性を確認することは法務の役割です。

実際の返し方は、たとえば次のようになります。

「法的には、この条件を満たせばグレーではなくなります。ただ、その条件は現場が毎回確認することが前提なので、抜け落ちるとリスクの軽減はできていないに等しいです。もう少し仕組みやシステムでカバーできませんか。」

「この責任分担だと、実際上トラブルが起きたときに一次対応をするのは当社になってしまいますが、一次受けをする人員やその体制は準備できそうですか」

いずれも法務としての判断を事業部に返しながら、実運用上の弱点を指摘しています。このような返し方ができれば、法務を早めに巻き込んだ価値を事業部に実感してもらいやすいと思います。

4. 早めの段階で呼ばれたときに事業部に渡す法務のお土産

早く呼んでも事業部としては得るものがなければ、次から呼ばれません。

企画段階では、結論を出すことよりも、ビジネスのために検討の見通しを立てることが法務の役割です。具体的には次の三つです。

  • 規制や論点となりそうな箇所の指摘──どこが論点になりそうかを先に示す
  • 当たる場合の代替案──スキームを変えた場合の代替案を提示する
  • 確認事項の切り分けとスケジュール感──今答えられる部分、事業部に事実確認をしてもらう必要がある部分、外部照会が必要そうな部分の切り分けと時期

三つ目が特に重要です。企画段階では確定的な回答が出せないことのほうが多いのですが、「まだ何も分かりません」だけでは事業部は動けませんし進め方のイメージが持てません。
今分かることは何で、事業部として確認すればよいことは何で、外部に照会すれば分かりそうなことが何で、それがいつくらいに分かりそうかのかという点を示すことができれば、事業部としてもその想定でスケジュールを引くことができ、ビジネスを前向きに進めることができるという意味で法務を早めに巻き込んだ価値があります。

5. まとめ

新規事業に法務が早期に入るための要素は、次の三つに整理できます。
第一に、事業部からの相談を待たず、定例や打ち合わせの設定によって法務の側から情報を取りにいくこと。
第二に、相談を受けたときに、適法性の判定だけでなく、その設計が運用として適切に回るかという観点を含めて返すこと。
第三に、検討の見通しスケジュール感を伝えてあげること

自社に法務担当者がいない、あるいは一人法務で新規事業の検討まで手が回らないという場合、外部の弁護士を企画段階から関与させる方法もあります。
MAKU法律事務所では、事業会社の法務部門で新規事業のスキーム検討に携わってきた経験をもとに、企画段階からの論点整理を含む法務アウトソーシングを提供しています。

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