ファミリービジネスの事業承継―遺言では実現できない「二段階の事業承継」 ― 後継ぎ遺贈型信託という選択肢
ファミリービジネスの事業承継―遺言では実現できない「二段階の事業承継」 ― 後継ぎ遺贈型信託という選択肢
ファミリービジネスの事業承継のご相談では、「今の後継者だけでなく、その先の代まであらかじめ決めておきたい」というご要望を伺うことがあります。
たとえば、「経営能力に不安のある長男ではなく、次男に会社を任せたい。ただし、いずれは長男の子(孫)に経営を戻したい」といったケースです。このような二段階、三段階の事業承継は、実は遺言だけでは実現が難しく、信託の活用が有効な選択肢になりえます。
遺言の限界 ― 「後継ぎ遺贈」の危険性
「株式をAに相続させ、Aの死亡後はBに相続させる」という内容の遺言は、「後継ぎ遺贈」と呼ばれてます。しかし、この形の遺言の有効性については、学説上、疑義が指摘されています。
民法上、いったん相続人に帰属した財産は、その相続人が自由に処分できるのが原則であり、遺言者が「その先」まで指定することは、所有権の内容に対する制約として問題があるためです。
この点について判示した最高裁判所の判例(最判昭和58年3月18日)も、後継ぎ遺贈そのものを正面から有効/無効と判断したわけではなく、遺言の解釈の問題として個別具体的な判断をしたにすぎません。
したがって、「経営は次男に、その先は孫に」という二段階の承継を遺言一本で確実に実現することは法的な危うさが払拭できません。
信託の有益性 ― 後継ぎ遺贈型信託=受益者連続型信託の仕組み
この問題を解決する手段が、信託法上の「受益者連続型信託」です。信託法は、受益者が死亡した場合に、その受益権が消滅し、次の者が新たな受益権を取得する旨をあらかじめ定めておくことを認めています(信託法91条)。仕組みとしては、現経営者を委託者(財産を託す人)とし、信頼できる受託者(法人であることが多いです)に自社株式を信託します。受益者は「現経営者→死亡後は後継者A→Aの死亡後(または一定の条件を満たした時点)は後継者B」という形で、あらかじめ連続した指定をすることができます。現経営者の生前は、経済的利益も議決権の実権も現経営者に残しておくことができ(自益信託)、贈与税も発生しません。
議決権と財産権を切り離すことで個別具体的な設計が可能となるメリット
信託の実務上の強みは、「誰が経営権(議決権)を握るか」と「誰が財産的な利益(受益権)を得るか」を分けて設計できる点にあります。信託契約の中で議決権行使の指図権者を定めておけば、株主名簿上の名義は受託者のままで、実質的な経営権だけを後継者に段階的に引き継がせることができます。一方、受益権(配当等の経済的利益)は、経営に関与しない親族にも一部配分するといった配慮が可能です。これにより、「経営は実力のある者に、財産的な配慮は実力のない親族にも」という、遺言だけでは両立しにくい要望を実現しやすくなります。
もちろん、指図権者と受益権者が一致しないことで、指図権者が受益権者に一定の善管注意義務、忠実義務を負うという議論もあるため、仮に議決権と財産権を切り離す場合には、指図権者の権限と義務について信託契約の中で明確に定めておく必要があるでしょう。
導入時に検討すべき注意点
<期間には限界があること>
受益者連続型信託は、信託設定から30年を経過した後に新たに受益権を取得した者が死亡するまでで終了するという期間制限があります(信託法91条)。超長期の承継計画には限界がある点に留意が必要です。
<信託財産も遺留分算定の対象となること>
- 遺留分を免れる目的で信託を利用したと評価される場合、その部分が公序良俗違反で無効とされた裁判例があります(東京地判平成30年9月12日)。信託財産も遺留分算定の対象になる前提で設計すべきです。
<後継者個人とは別に受託者を用意する必要があること>
- 受託者を後継者個人にすると、「受託者兼単独受益者」の状態が一年継続した時点で信託が終了してしまう規定(信託法163条2号)に抵触してしまいます。
受託者を一般社団法人※とするなど、制度設計上の工夫が必要です。
※例えば、受託者を株式会社とする場合、受託者たる会社の株式自体に相続が発生してしまい、議決権を後継者に集約させるという目的が阻害されてしまいます。一方で一般社団法人の場合は社員の死亡により権限が相続されることがないためです。
<事業承継税制を利用できないこと>
株式を承継した後継者への贈与税・相続税を猶予するという事業承継税制は信託の場合には適用されず、後継者への承継の都度課税が発生してしまうデメリットがあります。
参考:【第9条の2((贈与又は遺贈により取得したものとみなす信託に関する権利))関係】
まとめ
「経営は誰に、財産は誰に、その先の代まで」という多段階の事業承継は、遺言だけで組み立てようとすると、法的な不安定さを抱えたままになってしまいます。
信託の活用によって、経営者の意向をより確実な形で実現できる可能性があります。もっとも、信託の設計は個々の会社・家族の状況によって最適解が異なり、税務上の効果(事業承継税制との関係など)も含めた総合的な検討が欠かせません。MAKU法律事務所でも、信託を活用した事業承継のご相談を承っております。
2026.09.17投稿
※本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案については、専門家にご相談ください。
